自己破産手続きの流れ
多重債務で生活が破綻しそうな状況に陥ったとき、「自己破産」という方法があります。
自己破産は、裁判所の手続きを通じて借金の支払い義務を免除(免責)してもらうことで、経済的な再生を図るための強力な制度です。しかし、「破産」という言葉の響きから、手続きが複雑で時間がかかるのではないか、と不安に感じる方も多いはずです。
本稿では、自己破産手続きが実際にどのような流れで進むのかを、手続きの類型(同時廃止事件・管財事件)に分けて解説していきます。
1 自己破産手続きの全体像
自己破産手続きの最終的な目標は、裁判所から「免責許可決定」を得ることです。この決定が確定することで、原則として借金の支払い義務がなくなります。
手続き全体は、大きく分けて、①弁護士への相談・依頼(準備)、②裁判所への申立て、③破産手続の開始・進行、④免責の決定という4つの段階を経て進行します。
手続きの類型には、「同時廃止事件」と「管財事件」の2つがあります。
1-1 同時廃止事件の概要
同時廃止事件は、換価(現金化)して債権者に配当するほどの財産がない場合に適用され、この類型では比較的短期間で自己破産手続きが完了します。
この手続きは、破産手続きの開始と同時に、財産の換価・配当を行う手続きそのものを終了(廃止)するため、「同時廃止」と呼ばれます。
1-2 管財事件の概要
管財事件は、破産者に換価すべき一定以上の財産がある場合や、借金の原因に問題(免責不許可事由)があり、詳細な調査が必要な場合に適用されます。
この類型では、破産管財人という専門家(弁護士)が選任され、財産の調査や換価、配当を担うため、手続きに時間がかかります。
2 弁護士相談から申立書作成までの流れ(準備期間)
2-1 弁護士への相談と依頼
専門的な知識が必要な自己破産手続きを個人で進めるのは困難です。
まずは弁護士に相談し、自身の借入状況、財産状況、収入、生活状況といった全ての情報を正確に伝えます。弁護士は、その情報に基づき、自己破産が最善の解決策であるかを判断します。
依頼が決定すると、弁護士は、原則として、すぐに債権者に対し受任通知を送付します。この通知が届いた時点から、債権者からの申立人への直接の取り立てや督促は停止されます。これは申立人にとって、精神的な負担から解放されるという最大のメリットの1つです。
2-2 必要な書類の収集
裁判所に提出する申立書を作成するためには、多くの書類を収集しなければなりません。
戸籍や住民票の他、収入関係では、源泉徴収票、給与明細、所得証明書などが必要です。財産関係では、預貯金通帳の写し、保険証券、不動産の登記簿謄本、車検証、退職金見込額証明書などが求められます。さらに、全ての債権者の情報を正確にまとめた債権者一覧表を作成します。
これらの書類の収集には時間がかかります。
2-3 申立書および陳述書の作成と裁判所への申立て
収集した資料に基づき、弁護士は裁判所所定の書式で申立書を作成します。これに加え、借入の経緯や現在の生活状況などを説明する陳述書を作成します。
これらの書類が全て揃い、整えられた後、弁護士を通じて裁判所に提出されます。
3 同時廃止事件の手続きと期間
同時廃止事件は、先ほども述べたとおり、申立人に換価すべき財産がほとんどない場合に適用される簡易な手続きです。
裁判所は申立書を受理した後、書面審査を行います。申立から1か月程度で、「破産手続開始決定」と「同時廃止決定」が同日に出されます。
同時廃止事件では、管財事件のような詳細な調査は行われません。
その後、特に問題がなければ免責を許可する決定が出され、この決定から2週間の即時抗告期間内に不服申し立てがなければ、決定が確定し、手続きは完了します。
4 管財事件の手続きと期間
管財事件は、先ほども述べたとおり、一定額以上の財産がある場合や、免責不許可事由(詐欺的な借入、浪費、ギャンブル、破産法上の義務違反など)の疑いがあり、破産管財人による詳細な調査が必要な場合に適用されます。
裁判所は、申立から1か月程度で破産手続開始決定と同時に破産管財人(弁護士)を選任します。
選任された破産管財人は、申立人の財産の有無や、免責不許可事由の有無を調査する管財業務を行います。
この調査は開始決定後に行われ、申立人は管財人との面談や、郵送物の転送、居住地の制限など、一定の制約を受けながら調査に全面的に協力する必要があります。
この調査期間中、2か月から3か月に一度、裁判所にて債権者集会が開かれ、債権者に対し管財業務の経過報告が行われます。財産の換価が完了しない場合や免責調査が継続する場合は集会が続きます。
財産の換価が終わり、債権者への配当が完了すると、裁判所は破産手続きの終結決定を出します。その後、管財人の調査結果に基づき、裁判所が免責の可否を判断し、可とされた場合に免責許可決定が出されます。
決定から2週間の即時抗告期間を経て確定し、全ての手続きが完了します。
5 免責許可決定と手続き完了までの最後の流れ
破産手続きの最終段階において、管財事件では破産管財人による調査報告に基づいた免責審理が行われます。
裁判所は、申立人に免責不許可事由がないかをチェックします。仮に免責不許可事由があったとしても、管財事件の場合は、管財人の調査報告や申立人の反省の態度、生活再建への意欲などを総合的に判断し、裁判所の裁量によって免責を認める「裁量免責」となる可能性も残されています。
裁判所が免責を許可すると、「免責許可決定」が申立人に通知されます。そして、決定から2週間の即時抗告期間が設けられ、この期間内に債権者などからの不服申し立てがなければ、免責許可決定は確定します。
この確定をもって、申立人は借金の支払い義務から解放され、自己破産手続きは法的に完了となります。
6 まとめ
手続きを円滑に進め、無事に免責許可決定を得るためには、弁護士への相談・依頼が重要です。弁護士は、債権者からの取り立てを止め、裁判所への複雑な申立書類作成を代理し、裁判所や破産管財人とのやり取りを全面的にサポートします。
自己破産は、人生の再スタートを切るための手段です。借金問題で悩んでいる方は、一人で抱え込まず、法律の専門家である弁護士に相談し、自身のケースでどれくらいの期間で手続きを完了できるのか、正確な見通しを立ててもらうことが有効です。
おりお総合法律事務所は自己破産の実績が豊富で、ご相談者様の個別の事情に応じて見通しを立て、最善の手続きをご提案することができます。借金の整理でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。

